本を読んだり

読んだ本や日々を記録します。

しらずしらず

 

 

いい意味で期待を裏切られた本だった。
内容は、無意識、サブリミナルといった働きについての科学的な知見が様々に紹介され、その各種エピソードだけで十分楽しめるものだ。
しかし、それのみならず、無意識の働きを自分の人生に活かすには、という観点でも読むことができた。

本書は、各種の研究データを引き合いに、無意識の様々な働きが紹介されていく。
人は、自分で意識しなくても、無意識下で処理された様々な情報・判断結果を、後付けで自分の意識で筋道立てて考えたと思ってしまう。
例えば誰かに好感を持つかどうか、投資判断、性別での偏見などなど。意識化で受け取れる情報がまったく同じでも、無意識で受け取り判断されている情報(周囲の環境、意識で判断材料としているのと関係ない、性別などの情報、表情など)に左右されてしまう。
脳の構造として、人間だけでなく動物や虫にもある「古い」部位が無意識を、「新しい」部位が意識を処理していて、それらは混戦しあいながら機能しているのだそうだ。興味深い。

後半の数章では、それらの知見をもとに、人生に活かすにはということが語られる。
「幸せな「ふり」があなたを幸せにする?」という章では、周囲の人の表情や、プラシーボ効果、心拍数の高さなどが、意識では認識せずとも意識化での判断に影響している、ひいていえば、意識は無意識の判断を後付けで理屈付けしている等。
知っていても、それを実生活にうまく利用するのは難しそうだが、全く知らないよりは、何かの場面でやくにたつこともあるかもしれないと思った。

また、人は、自分は平均以上の能力があると過信する傾向があるそうだ。
それは過去の人類が過酷な環境を生き延びるのに、役に立ったのだろう。
一方、現代の研究で、きわめて正確な自己像を持っている人は、軽度の鬱や自己評価の低さに悩んでいることが多いという。
たとえ無意識を制御することができなくても、それを敵視せず共存して、時には好ましいものとして捉えていこうという内容で、本書はしめくくられる。

個人的には、今後、折に触れて眺め返したいと思う本になった。

働かないってワクワクしない?

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とある著名ブログで紹介され存在は知っていたもの、読んだのは初めてだった。
各所で感想が書かれている通り、働かない事自体をテーマにしたり、サボる事を推奨する本ではない。自由時間の使い方についての本だった。

 

「仕事人間は奴隷と同じ」という過激な章もあったりする。私としては、一時期、仕事=楽しいという頃があったりしたので違和感を覚えないでもないが、仕事=やらされ仕事という定義ならその通りだろう。
また、労働者が皆、規定の労働時間を働くようになったのは、産業革命による工場労働者が始まりだという。別に人間社会の古来からのモラルではないのだと。

 

ただ、作者はまったく働くなと主張しているわけではない。「あまり働かない」との言葉が出てくるが、真理に思える。
興味深い説がある。「有能人間は、ほどほどに働き、よく遊ぶ」。たしかにそうだろう。逆を考えると、全く遊ばず仕事だけし続ける人はいずれ無能になっていく。
「使命」という言葉が出てくる。自由時間にただただ遊んだり怠けたりして過ごせる人間は多くないという事だろう。

 

失業についての章もある。

 

あなたの生活が人間らしい時間を取り戻すのは、引退した時か失業した時である。

退職や失業によって、長時間の自由時間を手に入れた時、あなたは自分が本当はどんな人間なのかをテストされることになる。

  

自由のおそろしさということなのだろうか。失業は自分からではなく突然やってくる災難とも言えると思うが、自ら引退をするということは、その恐怖に向き合うということになるのだろう。
作中に出てくる、宝くじにあたったのに安月給の仕事をやめない人物に共感してしまう。

 

自由時間は仕事と同じように追求する価値があるもの

 

これが本書の核をなしていると思う。
「退屈という名の病気」という表現が出てくる。退屈はおそろしい。
この病気は退職者だけではなく働いている人にもかかるとのこと。たしかに身に覚えがある。

 

では、こう問いかけてみよう。運動不足の責任は誰? 期待が満たされない責任は誰? やりがいのない仕事を...

 

重い言葉だと思う。

 

自分を大切に思う「セルフ・エスティーム」「モチベーション(動機付け)」の重要さも強調される。人生の自由時間を充実させるためにも、まずあなたのモチベーションを高めなくてはならない。達成する方法を常に考える。計画して実行に移す。
「マイナスのモチベーション」という言葉も出てくる。厭世的に日々を過ごしがちな私は、気をつけねば。せっかくの時間を大切にしたい。

 

大半の人は本当に何が欲しいのかわかっていない。じっくり時間をかけて考えて見たことがないからだ。その代わり、他の人からの期待に沿って自分の欲しいものを決めている。

 

人生の残り時間を何に使うか、考えるだけでなく行動できるか。
個人的に、年々、もう残りの人生の先が見えたような気分で日々を過ごす傾向が強まっていたのだが、そういう時期に入って以降に読んだ中で一番衝撃を受けた本だった。